生前の贈与に2500万円までの特別控除を認める制度があります。
これは、被相続人が亡くなったときに、相続時精算課税制度による生前贈与分と亡く
なったときの財産を合算して相続税を計算するというものです。
相続税を払う人は、増税後は100人に6人程度と言われます。
この相続時精算課税制度を利用すれば、100人のうちの94人が、相続の際に相続する
財産と合算をしても、相続税を払うことなく、贈与税も払うことなく、早期の贈与ができ
るわけです。
また、この制度には、贈与者が60歳以上の親または祖父母、受贈者が20歳以上の子または孫という制限がありますが、住宅資金の贈与に使う場合は、一定の条件を満たせば親の年齢制限がなくなります。そのため親が子に住宅資金の頭金などを提供する場合によく使われます。
住宅が動けば、車、家電、インテリアなど他の消費財のマーケットが活性化します。親
から子の世代への贈与をスムーズにするとともに、消費全体を活性化しようという国の経
済施策でもあるのです。
なお、この制度は、厳密にいえば、節税策ではなく、贈与税が相続時まで「延納」され
るという意味合いを持ちます。ですから、相続時精算課税を利用した生前贈与と、通常の
贈与と、どちらが得かという議論はあまり成立しません。
一方で、いったんこの制度を選択すると、前項で見た贈与税の110万円の基礎控除を
受けられなくなります。毎年110万円にするか、一度に2500万円にするか、その点
は慎重に見極める必要があるでしょう。
近年、親世代が購入した土地の価格が相続の際、上昇しているケースがあります。
兄弟姉妹の平等意識も上がり、家を継ぐという意識も希薄です。そのため被相続人が亡くなったあとに「争族」が待っている場合があります。
相続時精算課税は、一括で2500万円、夫婦がそれぞれの親から贈与を受ければ、
2500万円×2=5000万円まで非課税になります。
この制度を使って、生前に財産を贈与することは、被相続人自身が行える安全で確実な
財産分配の方法とはいえます。遺言という方法もありますが、あくまでも死後の意思表示
であり、記載事項の不備によっては無効になることもあります。
被相続人が亡くなってから本人の意思と異なる分配がされる可能性がゼロではありません。
ただし、ケースによっては、この制度を利用することで税金を多く払う場合もありま
す。例えば、子が、親と一緒に住むために、5000万円の一戸建て住宅を購入するとし
ましょう。
このとき、相続時精算課税制度によって親から2500万円の贈与を受けれ
ば、親が亡くなったとき、この2500万円に対して相続税がかかります。
一方、同じ5000万円の物件を親子で購入し、共有名義にしていたらどうでしょう
か。死亡時に所有していた財産は、5000万円の物件のそれぞれの持ち分になり、土地
はおおよそ80%、建物は60%で評価されるので、2500万円より低い金額に対して税金
がかかり、結果的にこの制度を利用しないほうが節税になるわけです。
総額2500万円までなら複数回贈与も可能
なお、この2500万円は、総額2500万円までなら、複数回に分けて贈与すること
も可能です。贈与する回数や財産の種類に制限はありません。
ただし、2500万円を超えた部分の金額には一律20%の贈与税がかかります。一方
で、相続のときまでに負担した贈与税は、相続税から控除されます。
相続税の申告時に、相続開始時まで納付した贈与額のほうが相続税より多かった場合に
は差額が還付されます。
相続時精算課税制度は、リスクととなりあわせの選択肢です。利用者も減少傾向にあり
ます。利用をお考えの際は、税理士とよく相談することをおすすめします。